『歯が生える薬』を待つ前に。研究の進み方と今の歯科相談
こんにちは、あっぷるぐみの白衣ゆいです。
「歯が生える薬」という言葉を見かけると、「失った歯が薬で元に戻るの?」「もう治療を急がなくてもいいのかな」と気になる方もいるかもしれません。
実際に、歯の再生を目指す研究は進んでいます。ただし、ニュースで研究成果を知ることと、私たちが病院や歯科医院で治療として受けられることの間には、いくつもの段階があります。
今回は、薬剤師の古武幸之助さんの動画をきっかけに、大学と開発元の一次資料も確認しました。動画で示される将来予測を確定情報として受け取らず、「未来の治療を待つこと」と「今の歯を診てもらうこと」を分けて考えてみます。
「歯が生える薬」は、どこまで研究されている?
研究の中心になっているのが「USAG-1」というタンパク質です。
京都大学などの研究グループは2021年、先天性無歯症のモデルマウスに、USAG-1の働きを抑える抗体を投与する研究を報告しました。マウスでは歯の形成が回復し、別の実験では新しい歯の形成も確認されています。これは「人で治療効果が確認された」という意味ではありませんが、歯の再生治療につながる基礎研究として重要な成果です。
その後、開発元のトレジェムバイオファーマは「TRG035」という抗体薬の臨床開発を進めています。2026年8月17日には、先天性無歯症を対象とする探索的第IIa相試験について、治験届に関するPMDAの必要な調査が完了したと発表しました。
ここで大切なのは、「治験が進んでいる」ことと「治療薬として承認された」ことは別だという点です。
2026年9月28日に確認した資料は、承認や治療効果の確定、発売日の決定を示すものではありません。個々の患者さんに使えるかどうかについても、現時点で一般化することはできません。

最初の対象は「先天性無歯症」
もう一つ知っておきたいのが、「歯がない・失った」という状態にも違いがあることです。
開発元が最初の治療対象としているのは、生まれつき一部またはすべての歯が形成されない先天性無歯症です。
一方、虫歯や歯周病、事故などによって、もともとあった歯を失う「後天的な欠損」は同じではありません。開発元は将来的な次のステップとして後天的に失われた歯への応用可能性にも言及していますが、現在の主な開発対象と将来構想は分けて受け止める必要があります。
「歯を失った人なら誰でも近いうちに使える」という状況ではない、ということですね。
研究のニュースを見るときのポイント
新しい治療のニュースでは、「研究で成功」「治験開始」「承認」「実際に診療で使える」といった言葉が一緒に見えてしまうことがあります。
でも、それぞれは違う段階です。
動物で期待される結果が得られても、人での安全性や有効性を確認する研究が必要です。さらに臨床試験が進んだとしても、それだけで承認や発売が決まるわけではありません。
そのため、「2030年には必ず使える」といった年だけを頼りに、現在必要な治療を延期するのは避けたいところです。
未来の研究に期待することと、今ある症状や歯の状態を診てもらうことは両立できます。

家庭で確認しておきたいこと
歯が生えてこない、歯を失った、治療中の歯がある場合でも、自分で「先天性なのか」「この新しい治療の対象になりそうか」と判断する必要はありません。
歯科で相談するときは、次のことを簡単にメモしておくと状況を伝えやすくなります。
- いつから気になっているか、どの歯について困っているか
- 歯を失った経緯と、これまで受けた治療
- 痛みや腫れ、噛みにくさなど現在の症状
- 「この研究は自分の状態と関係がありますか?」「今できる治療には何がありますか?」など聞きたいこと
そして、現在受けている治療を「新しい薬が出るかもしれないから」と自己判断で中断したり、必要な受診を先延ばしにしたりしないことも大切です。
こんなときは歯科へ相談を
歯が生えてこない、歯が欠けている・失われていることが気になる場合はもちろん、歯の痛み、歯ぐきの腫れ、噛みにくさなどがある場合も、まず歯科で相談しましょう。判断に迷う場合も、かかりつけの歯科医や主治医に相談してください。
治療方法は、歯や歯ぐきの状態、年齢、欠損している場所や本数などによって変わります。特定の治療法を一律に選ぶのではなく、歯科医と相談して自分の状態に合った方法を考えていくことになります。
また、急に強く悪化する症状や大きな腫れがある場合は、通常の予約を待たずに速やかに医療機関へ相談してください。息苦しい、呼吸がしづらいなど緊急性がある場合は、119番などで救急の助けを求めてください。
まとめ:未来を楽しみにしながら、今できることを
「歯が生える薬」の研究は、以前なら想像しにくかった治療を目指して、実際に臨床開発まで進んでいます。
一方で、2026年9月28日時点で確認できるのは、まだ研究・開発の途中だということです。
新しい治療のニュースを見ると、期待したくなるのは自然なことだと思います。そんなときこそ、「研究ではどこまで分かっている?」「人での治療はどの段階?」「自分の歯は今どうしたらいい?」と分けて考えてみてください。
未来の治療を楽しみにしながら、今ある歯の困りごとは今の歯科医療で相談する。その二つを同時に大切にしていきましょう。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療の判断に代わるものではありません。
参考にした動画・資料
- 薬剤師の健康雑学 -古武 幸之助「『歯が生える薬』2030年に本当に来る?薬剤師が徹底解説【USAG-1抗体薬】」(2026年3月10日)
- 京都大学「先天性無歯症に対する分子標的薬の開発 −USAG-1を標的分子とした歯再生治療−」(2021年2月15日)
- トレジェムバイオファーマ「私たちの技術:患者さまへ」
- Toregem BioPharma「TRG035第IIa相試験の治験届に関するPMDA調査完了のお知らせ」(2026年8月17日・英語)
※資料確認日:2026年9月28日。動画は話題を知るきっかけとして参照し、開発状況は上記の一次資料を基に整理しています。
